同制度に応じて、60歳定年前に関連会社に移籍すれば、例えば50歳で年収の一年半分、55歳で一年3ヶ月分が通常の退職金に上乗せされる。
独立する場合は、さらに6ヶ月分が上積みされるので、最高2年分の特別加算を受け取れる。
また関連会社に移る人は、原則的に65歳まで働けるという。
しかし早期退職優遇制度は日本に限らず、従業員の第2の人生を応援するという面と、定年制の中断という面とを併せ持っているものである。
企業により、あるいはその時、企業が置かれている状況により、いずれかの面が強く出る。
中高年者が多くて、人員構成がいびつになり、人件費負担も重くなっている場合には、定年制を中断して中高年者に早く退社してもらいたいというのが制度の本音として浮かび上がる。
実は、「終身雇用」と言いながら、字義通りの終身雇用ではなかった。
以前は55歳定年制をとり、最近は60歳定年制という形で、一定の年齢で線を引いて一律に退職させている。
こうした定年制と、早期退職優遇制度とは、考え方に一脈通じるものがある。
もっとはっきり言えば、ほとんど違いはない。
定年制と早期退職優遇制度は基本的には同じ発想に根ざしているのだ。
55歳定年が一般的だった頃、平均寿命がまだ若かったから、これでも事実上の終身雇用だという説明があった。
昭和30年の男性の平均寿命は63・6歳で、現在より十歳以上も短かった。
年収一千2百万円の人が独立した場合、退職金は一時加算を含めて5千万円近くになった。
体力などの衰えを考えれば、55歳くらいが限度という見方である。
その後、寿命が伸びて、元気なお年寄りが増えて、55歳では若すぎる、60歳くらいまでは十分働けるという意見が強まり、さらに年金との連動を考慮して、60歳への定年延長が進められてきた。
これらの理屈は一見もっともらしいが、年をとると個人差がかなり出てくるのに、なぜ一律に定年制を設けているのかという点については十分な説明にはなっていない。
定年を迎えると、かなりまとまった退職金を受け取って退く。
最近は企業年金も増えたが、いずれにしてもサラリーマンは最後に多額の一時金を受け取ることによって職業生活を締めくくる。
昔から定年制とセットで行われているので、誰も不思議に思わないが、日本のようにまとまった金額の退職金制度は国際的にユニークなものである。
労働経済の研究者の間では、前から退職金の意義付けを巡って様々な議論がなされてきた。
企業の人事労務担当者は、毎年のベースアップによる退職金算定の基礎額の増加と、高齢者そのものの増加とによって、退職金の負担が際限なく増えることを、かなり以前から懸念していた。
退職金倒産が出るのではないかと言われた時期もあった。
このため企業は、退職金の年金化や、算定基礎額の基本給からの切り離しなどの対策を講じて、退職金の負担軽減を長い時間をかけて図ってきた。
日本の企業は、経営者もサラリーマン上がりで、株主よりも従業員を大切にしていると言われる。
労務政策は人間尊重や家族主義的な考え方に基づいているという見方である。
しかし企業である以上、経済合理性を踏み外すわけにはいかない。
人事労務担当者が退職金の負担を抑えるために悪戦苦闘してきたのは一例で、どんな人事制度も損得勘定の裏付けを欠いては存続しない。
当然、いかなる制度も、その創設の動機や経緯をたどれば、企業にとって「得になるから」という論理が定年制をこうした観点から見直してみると、これも一種の早期退職優遇制度なのである。
以前の55歳定年制の時代は、年功序列による昇進・昇給管理が今以上にきちんと守られていた。
年がいくほど、コストは高くなる。
そのうえ、働きたいだけ働けるという具合に掛け値なしの終身雇用にしたら、管理職ポストは高齢者に占められて人事が停滞するのは必至である。
定年制によって、ある年齢で引退させるシステムは、組織を健全に保つ一種の知恵とも言える。
55歳でもばりばり働ける人は昔でも少なくなかった。
だからこそ、そこで線引きして定年制を敷いたわけである。
もし、人間の労働力としての耐用年数が、50歳代半ばで自動的に切れるならば、定年制など必要ない。
放っておいても、その辺りで退職して、人事の停滞もなければコスト高に歯止めもかかるからである。
現実には、まだ働けるのにみんな平等に定年とともに一斉に退職してもらうことによって、終身雇用という名の長期継続雇用と年功制を機能させてきたのである。
多額の退職金は、受け取る従業員側から見れば、現役時代に安かった賃金の後払い、あるいは長期勤続に対する報償金という性格のものだろう。
違う角度から見れば、雇用を途中で切る代償として支払う、生活保障費ないし補償料という性格が強い。
「終身雇用」という名称にだまされていては、これからの変化を読み誤る。
終身雇用は神話に過ぎない。
企業はもともと、定年制度によってコスト高の割に成果の少ない高齢の従業員を勇退させて、人件費倒れにならないようにやってきたのである。
何も、今になって急に中高年者の追い出しに積極的になったわけではない。
不況になると、やり方が露骨になるだけで、本質は変わらない。
60歳定年になって、定年制度の本音が少し見えるようになった。
何が起きたかというと、早期退職優遇制度が出てきたことである。
60歳まで定年を延長する代わりに、55歳辺りで昇給を頭打ちにしたり、早期に退職する人には退職金などの面で優遇措置を講じて定年前の退職を促したりして、コスト増を緩和しようとする動きが広がった。
60歳定年をうたう以上、その前に一律に退職させるわけにはいかない。
そこで任意に退職したい人に対してインセンティブを与えて、早期退職を誘導するための制度を工夫したわけである。
早めに退職すれば、退職金を割り増しして有利になるように設計している。
もちろん、そのまま定年まで在籍された場合には、賃金や付加給付の負担が早期退職の場合に支払う退職金を上回る。
企業にとっては高齢者に早く辞めてもらった方が金銭的な負担だけを考えても得なのである。
またポストも空くから、人事もやりやすくなり、若手の活性化にも役立つ。
狙いは、定年制度と基本的には同じである。
もしも第2の人生に早めに踏み出す従業員を援助するという側面だけを見れば、恩恵的な制度と言える。
しかし60歳では遅すぎるから早く辞めて欲しいというもう一つの、実は企業経営上、より重要な狙いが全くなければ、退職金をわざわざ割り増して優遇する必要はないはずである。
なぜなら、本当に任意に自分の希望で退職するのであれば、自己都合退職である。
加算する根拠は何もない。
通常の退職金規定に従って支払えば済む話である。
普通の転職のための退職者と本来変わらない。
しかし年齢を50歳以上などと制限しているところに、ある種の作意が表れている。
会社都合の退職を誘う狙いが、制度作りのそもそもの動機の中に含まれているわけである。
企業が業績不振などで人員削減が必要になると、この早期退職優遇制度はもう少し積極的な意味を持ってくる。
にわかに中高年者に対する退職勧奨の色彩を強めるわけだ。
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